ひつじを丸ごと使う -肉、羊毛、そしてラノリン

原毛屋のポンタには「丸ごと羊を使いこなす」という夢があります。肉、羊毛、そしてやっぱり「ラノリン」。この羊の毛から採れる脂、ラノリンで石けんを作ることは、長い間頭の隅にありました。
それは、1984年オーストラリアで羊に出会い、帰ってから原毛屋をはじめ、2回目に豪州を訪れた時、羊毛を洗う工場に行った時に始まります。広い広い工場で働いているのはたったの数人、羊毛を洗った後の汚水からラノリンを精製、そして残った汚泥からは堆肥を作る。それはエネルギーも水も生産物もすべてクリーンに処理する無駄のない工程でした(スピナッツ4号1986年と、28号1994年に掲載)。
その後1998年愛知県一宮のニッケさんの工場を見学、またもや羊毛を洗った後の汚水を浄化するシステムを取材しました(スピナッツ41号)。洗毛後の汚水を遠心分離機にかけ精製、にじみ出るラノリン脂。そのむせかえるように甘い羊の毛のにおい・・・これはまさにスピンハウスのにおいと同じでした。その時の感動は、忘れません。
以来、ラノリン石けんの夢はすこしずつ膨らんでいき・・・2006年夏。ようやくそれにチャレンジすることにしました。

ラノリンは化粧品の原料
ラノリンは、実は日常生活の中で口紅やハンドクリームの原料に使われています。身近に使っているにもかかわらず、意外とそれが羊の毛から採った脂・ラノリンであることを知ってる人は少ないかもしれません。
でも、スピナーなら羊の毛(フリース)をさわっていると、手がしっとりして、ヒビやアカギレもしないなあと思われたことはありませんか?
今回ラノリン石けんの試作は、石けん屋の岡ゆかりさんに作ってもらいました。アドバイザーはバンコクの高木多香子さんです。ラノリンは市販のものを入手(オーストラリアから輸入されたもの)、そこからラノリンを生かす石けんのレシピを試作しました。無香料タイプと、少し香料を入れたタイプ、いずれも手洗い、洗顔、ボディー、またシャンプーとしても使えるよう、洗浄力としっとり感、そして泡立ちの良い配合を試行錯誤しました。
まずは「羊をまるごと使う・羊の恵み-ラノリン」その精製の工程をご紹介(図1)します。そして実際に、ラノリンの石けんも作ってみました(図2)。動物性の脂の良さ、グリセリンいっぱいのしっとり感のある石けんです。

ラノリンとは
ウールグリースは、羊毛に付着している羊の皮脂で、羊毛脂(wool grease, wool fat)あるいは羊毛蝋(wool wax)などとよばれている。1882年に、ドイツのリーブライヒ博士が、ウールグリースの精製に初めて成功し、ラノリン(lanolin)と命名した。
人類とウールグリースとの出合いはたいへん古く、羊を家畜として飼うようになった時代にまでさかのぼる。この時代に羊の毛についている油性物質が人間の肌に良いことを体験的に知るようになった。その後、古代ギリシア時代にはすでにシワ防止剤として利用されていたことが記録に残されている。多くの薬草などと同様に、人類は長い歴史を通じてラノリンの有効性と安全性を確認してきたのである。そして、現在でも、世界中で販売されている化粧品の半数以上にラノリンまたはその誘導体が配合されているのである。
このことは、現在にいたるまでラノリンに匹敵するほどの保湿性、柔軟化性、乳化性、分散性などを兼ねそなえ、人間の皮脂に似た物質がほかに見あたらないことを示している。
現在、全世界で年間に刈りとられる羊毛に付着しているウールグリースの量は単純に計算すると25万トン位だが、そのうち回収されるウールグリースの量は10分の1以下である。したがって資源的にはまだまだ余裕のある分野であり、石油のような有限資源と異なり、再生産が可能という利点もある。
ウールグリースは、本来羊の皮脂や長い毛を保護するために分泌されるものであるから、ほかの動植物性油脂と異なり、人間の皮脂と機能的に非常によく似ている。人体にとってもっとも適切なスキンケアクリームとしてはたらくのも当然である。事実皮膚に塗ったとき、表面の油膜を多孔性にして、水分の透過や皮膚呼吸を妨げない。そのうえ抗菌作用があることも認められている。
頭髪に浸透させることで、髪の毛の引っ張り強度が増し、弾力性を与えるという。シャンプーに使用し頭髪保護にきわめて有効といわれる。
また、ラノリン脂肪酸は、金属の防錆剤として利用開発がなされている。自動車の車体防錆用、船舶のバラストタンク用などが商品化されている。

「ウールブック」THE WOOL BOOK 1989年 株式会社平凡社刊
p80 「ウールグリースとラノリン」吉川製油協力 より抜粋

ラノリンせっけんを作ってみて
なんて重いオイルだろう…それが植物から採れるオイルばかりを扱っていた私の第一印象です。香りも感触も新鮮な驚きでした。ラノリンの重厚感、肌への有効性を十分に生かすためにラノリンを25%配合し、石鹸としての特性もしっかりと出す植物オイルの配合を考え、ラノリンらしさを堪能出来る石鹸に仕上げました。蜂蜜も入れて泡立ちにモッチリ感も出してみました。お試しください。(岡ゆかり)